院長コラム
講演報告:「心不全Stage A〜Dにおける治療戦略」

〜高血圧から始める“心不全予防”の最前線〜
7月28日、循環器疾患Expert Conferenceにて
『心不全Stage A・Bにおける治療戦略』 をテーマに講演を行いました。
今回は、講演の中でも特に重要な、心不全のステージ分類とARNIを中心とした最新治療について、
患者さんにもわかりやすくご紹介します。
🫀 「心不全」は突然起こる病気ではありません
実は、心不全は“ある日いきなり”なるわけではなく、
長い年月をかけて少しずつ進行していく病気です。
アメリカ心臓協会(AHA)のガイドラインでは、心不全は次の4つのステージに分類されます。
Stage A:心不全のリスクがある段階(まだ心臓は正常)
- 高血圧、糖尿病、肥満、慢性腎臓病などのリスク因子がある状態です。
- 心臓にはまだ異常がなく、症状もありません。
→ この段階からの生活習慣改善と高血圧治療が“予防の第一歩”です。
Stage B:心臓に構造的変化があるが、症状はない段階
- 心肥大や軽度のポンプ機能低下があるが、息切れなどの症状はまだない状態です。
→ この時点で治療を始めることで、心不全の発症を防ぐことが可能です。
Stage C:心不全の症状が出ている段階
- 動くと息苦しい、むくむ、体重が増えるなどの症状が出てきます。
→ 薬物治療・食事療法・生活指導などを組み合わせた包括的治療が必要です。
Stage D:治療に反応しにくい重症心不全
- 休んでいても症状がある、入退院を繰り返すような状態です。
→ 専門的治療(補助循環装置、心臓移植など)を検討する段階です。
このように、心不全はAからDへと段階的に進行していきます。
ですから、**A・Bの段階での治療こそが“真の予防”**になります。
💊 ARNIとは?
心不全予防の新たな選択肢
最近注目されているのが、**ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)**です。
代表的な薬剤は「エンレスト®(サクビトリル/バルサルタン)」という薬剤です。
ARNIは、
- アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の作用で血圧を下げる
- ネプリライシン阻害作用で、体内の余分な水分を排出しやすくする
という2つのメカニズムで心臓を保護します。
もともと心不全治療薬として登場しましたが、
最近の研究では、Stage A・Bの段階(特に高血圧や心肥大)からの使用が有効とされています。
心臓の負担を軽くし、構造的変化(リモデリング)を抑える効果が期待されているのです。
🔍 高血圧治療の新しい考え方
〜「血圧を下げる」から「心臓を守る」へ〜
高血圧は、心不全を引き起こす最大の要因です。
長年にわたる血圧上昇が心臓の壁を厚くし(心肥大)、やがてポンプ機能を低下させていきます。
この「心肥大」の段階(Stage B)でARNIを使うことで、
心臓の形態および機能変化を改善し、心不全に進むリスクを減らすことができる可能性があります。
つまり、
「血圧を下げるだけでなく、心臓そのものを守る」
というのが、ARNIなどを使った新しい高血圧治療の考え方です。
🌿 「予防のための治療」を始めましょう
心不全は、症状が出てからの治療では遅いこともあります。
だからこそ、症状がないうちからの“心臓を守る治療”が重要です。
当院では、高血圧や糖尿病のコントロール
- ARNIを含む最新の薬物療法
- 食事・運動指導
を組み合わせ、患者さん一人ひとりに合わせた心不全予防プランをご提案しています。
✏️ まとめ
- 心不全はA〜Dの4段階で進行する病気
- Stage A・B(リスク期・前駆期)での介入が最も重要
- ARNIは、血圧を下げるだけでなく心臓を保護する新しい治療薬
- 高血圧治療は、未来の心不全を防ぐ第一歩
📍血圧が少し高い方、糖尿病や腎臓病のある方、家族に心不全の方がいる方は、ぜひご相談ください。
早めの治療が、将来の心臓を守ります。