院長コラム
論文が掲載されました

院内発症の肺塞栓症のリスク因子について約468万人のデータから解析した論文が日本循環器学会の雑誌に掲載されました。
今回は私が執筆した論文について、少しだけお話ししたいと思います。
私たちの研究は、2017年から2021年までの期間における入院患者の肺塞栓症(PE)発症に関するデータを分析したものです。このテーマは、医療現場で日々患者と向き合っている私たちにとって非常に重要です。なぜなら、入院中のPEは予防が可能であり、発症を未然に防ぐことで患者さんの命を守ることができるからです。しかし、実際にはどの患者さんがPEのリスクが高いのかを判断するのは難しく、また適切な予防策が行われていない場合も少なくありません。
私たちの研究結果は、入院中のPEが高リスクの患者群、特に過去に静脈血栓塞栓症(VTE)の既往がある患者や、心不全、大腿骨骨折といった病状で入院した患者において発生しやすいことを示しています。この知見が、医療従事者が入院時にPEのリスクを適切に評価し、予防策を講じるための一助となることを願っています。
さらに、私たちは入院中にPE予防措置を実施した割合を調査したところ、その実施率に大きなばらつきがあることがわかりました。特に大腿骨骨折やがん患者では高い予防率が見られる一方で、心不全や肺炎の患者では予防が不十分な場合もありました。この点について、今後の改善が求められると感じています。
私たちの研究が、医療現場でのPE予防対策を見直すきっかけとなり、さらに多くの患者さんに利益をもたらすことを心から期待しています。入院中のPEは深刻な合併症であり、その予防は患者の回復を大きく左右します。この研究が、医療の質向上に貢献できることを願ってやみません。
皆さんにとって、この研究結果が少しでも役立つ情報となり、実際の臨床現場での意思決定に生かされることを心から祈っています。