院長コラム
講演報告(亀田総合病院):「院内発症肺塞栓症を防ぐ医療 ~VTE対策が変える診療と安全文化~」

「院内発症肺塞栓症を防ぐ医療 ~VTE対策が変える診療と安全文化~」
先日、亀田総合病院にて、「院内発症肺塞栓症を防ぐ医療 ~VTE対策が変える診療と安全文化~」をテーマに講演をさせていただきました。
肺塞栓症(PE)は、下肢などにできた血栓(深部静脈血栓:DVT)が肺の血管に詰まることで発症する病気です。重症化すると命に関わることもありますが、その多くは適切な予防と早期対応によって防ぐことができると考えられています。
今回の講演では、院内で発症する肺塞栓症をいかに減らすかという視点に加え、2026年に発表されたAHA/ACC急性肺塞栓症ガイドラインの最新の内容についても紹介しました。
「肺塞栓症になってから治療する」から「重症化させない」へ
これまで肺塞栓症の診療では、診断後に重症度を評価し治療を選択することが中心でした。
一方、新しいAHA/ACCガイドラインでは、
- 肺塞栓症を早期に疑うこと
- 患者さんの状態を時間経過も含めて評価すること
- 適切な治療を迅速に開始すること
がこれまで以上に重視されています。
つまり、「診断がついた後」だけではなく、「診断に至るまで」の過程や、その後のフォローアップまで含めた診療が重要であるという考え方です。
新しい重症度分類が導入されました
今回のガイドラインで最も大きな変更点の一つが、新しい**急性肺塞栓症のカテゴリー分類(A〜E)**です。
従来は「Massive」「Submassive」といった分類が広く使われていましたが、新しい分類では、
- 血圧
- 心臓(右心室)への負担
- 血液検査
- 病状が時間とともに悪化しているかどうか
などを総合的に評価し、患者さんごとに最適な治療方針を選択する考え方へと進化しました。
特に重要なのは、血圧が保たれていても安心とは言えないという点です。
一見安定しているように見えても、右心室への負担や全身への影響が進行している患者さんでは、より積極的な治療が必要になることがあります。
多職種で支える「PERT」という考え方
もう一つ大きなテーマが**PERT(Pulmonary Embolism Response Team)**です。
これは肺塞栓症に対して、
- 救急医
- 循環器内科医
- 呼吸器内科医
- 放射線科医
- 心臓血管外科医
- 血管内治療医
- 看護師
- 薬剤師
などがチームとして連携し、一人ひとりに最適な治療を迅速に決定する体制です。
肺塞栓症は短時間で病状が変化することがあるため、多職種による迅速な意思決定が患者さんの予後改善につながることが期待されています。
「院内発症肺塞栓症ゼロ」を目指して
肺塞栓症は、長期間の安静や手術、入院などをきっかけに発症することがあります。
そのため、
- 患者さんごとの血栓リスクを評価すること
- 適切な予防策を講じること
- スタッフ全員が共通の認識を持つこと
が非常に重要です。
私はこれまで九州大学病院でのVTE対策グループの委員長として院内対策に取り組んだ経験を踏まえて「院内発症肺塞栓症を防ぐ医療」をテーマに講演や研究を続けてきました。今回の新しいガイドラインでも、早期診断や多職種連携、適切なリスク評価の重要性が改めて示されており、これまで取り組んできた考え方と一致する内容が数多く盛り込まれていました。
当院でも安全な医療の提供に努めています
肺塞栓症は決して珍しい病気ではありません。しかし、適切な予防と早期対応によって、多くの患者さんを守ることができます。
当院でも最新の医学的知見を取り入れながら、
- 血栓症のリスク評価
- 適切な抗凝固療法
- 生活習慣へのアドバイス
- 必要に応じた専門医療機関との連携
を通じて、安全で質の高い医療の提供に努めてまいります。
今後も学会や講演会で得た最新の知見を、日々の診療に活かし、患者さんにより良い医療を提供できるよう取り組んでまいります。