コラム 日浅循環器内科クリニック

院長コラム

講演報告:「循環器疾患を考慮したCOPDの治療戦略を考える」

 

先日、上記演題名で講演を行う機会をいただきました。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は“肺の病気”として知られていますが、実は心臓や血管の病気(循環器疾患)と深く関わる病気でもあります。

今回の講演では、COPDと循環器疾患の関係、そして日常診療で私たちが意識したいポイントについてお話ししました。

 

COPDは「見逃されやすい疾患」

 

COPDは、長年の喫煙などで気道や肺が傷つき、息切れや咳、痰が続く病気です。

ところが現実には、COPDの診断率はまだ低く、見逃されている方が少なくありません。

  • 「年齢のせいだと思っていた息切れ」
  • 「風邪をひきやすいだけだと思っていた咳や痰」
  • 「タバコを吸っている人なら、多少は仕方ないと思っていた症状」

こうした形で、喫煙歴のある方のCOPDが“気づかれないまま進んでいる可能性”が多いのが大きな課題です。

 

 

軽〜中等症COPDでも、死亡原因に「循環器疾患」が関わる

 

COPDというと重症の呼吸不全をイメージされる方も多いかもしれません。

しかし講演で強調したのは、軽〜中等症のCOPDの段階でも、死亡原因の一つに循環器疾患が多いという点です。

 

COPDでは肺の炎症が全身にも影響しやすく、動脈硬化や心不全、虚血性心疾患などのリスクが高くなることが知られています。

つまり、「まだ息切れが軽いから大丈夫」と思っていても、心臓や血管に負担がかかっている可能性があるのです。

 

増悪(急な悪化)を繰り返すほど、循環器疾患のリスクが上がる

 

COPDには、症状が落ち着く時期(寛解)と、急に悪化する時期(増悪)があります。

この増悪を繰り返すほど、循環器疾患の発症率が高くなることも重要なポイントです。

増悪時には呼吸状態が悪化し、体に強いストレスがかかります。

その結果、心臓や血管の病気を引き起こしやすくなり、日常生活の質(QOL)だけでなく、将来の健康にも大きく影響します。

 

 

早めの“気づき”と“対策”が、肺と心臓の未来を守ります

 

COPDと循環器疾患を同時に意識することは、

「息切れの治療」だけでなく、「将来の心血管イベントを防ぐこと」にもつながります。

 

そのために大切なのが次の2つです。

 

① 肺機能検査(呼吸機能検査)を受けること

COPDの診断には、**肺機能検査(スパイロメトリー)**が欠かせません。

短時間でできる検査で、息切れの原因がCOPDなのか、別の病気なのかを客観的に評価できます。

 

特に、以下に当てはまる方は一度ぜひご相談ください。

  • 喫煙歴がある(過去の喫煙含む)
  • 階段や坂道で息切れしやすい
  • 咳や痰が長く続く
  • 風邪をきっかけに長引く呼吸の不調がある

     

「検査をするほどでも…」と思っている段階こそ、実は大切なタイミングかもしれません。

 

② 禁煙に取り組むこと

COPDの進行を抑え、増悪や循環器疾患のリスクを下げるために、

最も大きな効果が期待できるのは禁煙です。

 

当院では禁煙外来を行っています。

「自分の意思だけでは難しい」「何度も失敗した」という方も、

医療のサポートを受けながら一緒に取り組むことで成功率は大きく上がります。

 

当院でのCOPD診療について(吸入治療・SITTも含めて)

 

COPDは、早期に診断し、増悪を防ぎながら肺と心臓の負担を減らすことが大切です。

当院では、肺機能検査や生活指導に加え、吸入治療薬を中心としたCOPD治療を行っています。

 

吸入治療は、症状や増悪の頻度、併存疾患(特に循環器疾患のリスク)、生活スタイル、吸入手技などを踏まえて、

患者さんごとに適切な薬剤・デバイス・治療強度を選ぶことが重要です。

 

必要に応じて、

  • 気管支を広げて息切れを改善する薬
  • 増悪を防ぐための薬
  • 1本の吸入薬で3つの薬効(ICS/LAMA/LABA)をまとめたSITT(トリプル製剤)

なども含め、その方に合った吸入治療を提案しています。

 

近年の大規模試験では、増悪を繰り返す高リスクのCOPD患者さんにおいて、SITT(トリプル製剤)による増悪抑制に加え、全死亡リスクを下げる可能性があることが報告されています。

もちろんすべての方に当てはまるわけではありませんが、増悪をしっかり減らし、肺だけでなく心血管リスクも含めた“長期の健康”を守るための選択肢として重要になっています。

 

「どの吸入薬が良いか分からない」「吸い方が不安」「治療を見直したい」といった場合も、遠慮なくご相談ください。

 

最後に

 

COPDは、“肺だけの病気”ではありません。

心臓や血管の健康にも関わる、全身の病気です。

 

見逃されやすい病気だからこそ、

**「早めに気づくこと」「増悪を防ぐこと」「禁煙に取り組むこと」**が、

肺と心臓の両方の未来を守ることにつながります。

 

喫煙歴がある方、息切れや咳・痰が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください。

必要に応じて肺機能検査や禁煙外来、吸入治療(SITTを含む)のご案内をいたします。